東京地方裁判所 昭和58年(特わ)2059号 判決 1983年11月10日
裁判所書記官
安井博
(被告人の表示)
本店所在地
東京都豊島区東池袋一丁目一四番一六号
野村信販株式会社
右代表者代表取締役
野村陸三
本籍
東京都練馬区旭丘二丁目一二番地
住居
東京都豊島区千早町一丁目二二番地 糸部政子方
会社役員
野村陸三
昭和一五年三月三一日生
主文
1 被告人野村信販株式会社を罰金一五〇〇万円に、被告人野村陸三を懲役一年にそれぞれ処する。
2 被告人野村陸三に対し、この裁判確定の日から三年間その刑の執行を猶予する。
理由
(罪となるべき事実)
被告会社野村信販株式会社(以下「被告会社」という。)は、頭書所在地に本店を置き、不動産の売買等を目的とする資本金五〇〇万円の株式会社であり、被告人野村陸三(以下「被告人」という。)は、被告会社の代表取締役として同社の業務全般を統括しているものであるが、被告人は、被告会社の業務に関し、法人税を免れようと企て、売上の一部を除外するなどの方法により所得を秘匿したうえ、
第一 昭和五四年七月一日から同五五年六月三〇日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が六八二四万八八一四円あった(別紙(一)修正損益計算書参照)のにかかわらず、同年九月一日東京都豊島区西池袋三丁目三三番二二号所在の所轄豊島税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が一三〇万二六六二円でこれに対する法人税額が二八万七二〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書(昭和五八年押第一三五八号の2)を提出し、そのまま法定納期限を徒過し、もって不正の行為により同社の右事業年度における正規の法人税額三八〇六万四五〇〇円と右申告税額との差額三七七七万七三〇〇円(別紙(三)税額計算書参照)を免れ
第二 昭和五五年七月一日から同五六年六月三〇日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が二八一九万〇六〇八円あった(別紙(二)修正損益計算書参照)のにかかわらず、同年八月二九日、前記豊島税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が七二万四八七二円でこれに対する法人税額が二万六七〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書(前同押号の1)を提出し、そのまま法定納期限を徒過し、もって不正の行為により同社の右事業年度における正規の法人税額一五六八万一一〇〇円と右申告税額との差額一五六五万四四〇〇円(別紙(三)税額計算書参照)を免れたものである。
(証拠の標目)
判示事実全般につき
一 被告人の当公判廷における供述及び検察官に対する供述調書九通
一 次の者の検察官に対する供述調書
佐藤進、国峯紀久夫、中川富士夫、長谷川勝美(ただし、謄本)、大久保昭助、石井悦治、津村幸次、白石盛、山下善弘(ただし、二通)、尾杉敬治、粕谷操、北務、花井毅、佐藤清次郎、佐藤一夫、小平一成、松本敬一、芹田友宏、石塚久矩、富田勝美、白石正己、新井一郎、荷田幸子、近藤義宣
一 東京法務局豊島出張所登記官作成の商業登記簿謄本
判示各事実ことに過少申告の事実及び別紙(一)、(二)修正損益計算書の公表金額につき
一 押収してある法人税確定申告書二袋(昭和五八年押第一三五八号の1、2)
判示各事実ことに別紙(一)、(二)修正損益計算書の当期増減金額欄記載の内容につき
一 収税官吏作成の売上(違約金収入を含む)調査書((一)、(二)の各<1>。以下の調査書も収税官吏作成のもの)
一 受取利息(ローン手形分)調査書((一)、(二)の各<3>)
一 期首商品棚卸高調査書((一)の<5>)
一 仕入調査書((一)、(二)の各<6>)
一 分譲販売広告費調査書((一)、(二)の各<8>)
一 分譲販売現場経費調査書((一)、(二)の各<9>)
一 検察官作成の捜査報告書(「分譲販売現場経費」と表示のあるもの。前同)
一 分譲販売手数料調査書((一)、(二)の各<10>)
一 名義借料調査書((一)、(二)の各<11>)
一 西濃地所(株)関係費調査書((一)、(二)の各<12>)
一 福利厚生費調査書((一)、(二)の各<15>)
一 支払手数料調査書((一)、(二)の各<17>)
一 接待交際費調査書((一)、(二)の各<20>)
一 旅費交通費調査書((一)、(二)の各<21>)
一 租税公課調査書((二)の<25>)
一 地代・家賃調査書((一)、(二)の各<27>)
一 修繕費調査書((二)の<28>)
一 保険料調査書((二)の<30>)
一 新聞図書費調査書((一)の<31>)
一 受取利息(預金利息)調査書((一)、(二)の各<35>)
一 支払利息・割引料調査書((一)、(二)の各<36>)
一 検察官作成の捜査報告書(「雑損失」と表示のあるもの。(二)の<37>)
一 事業税認定損調査書((二)の<45>)
判示各事実ことに別紙(三)税額計算書中の摘要欄記載の内容につき
一 課税土地譲渡利益税額計算調査書(同計算書の番号各12、13)
なお、関係証拠によると、被告人は、昭和五七年三月佐藤進に支払った二五〇〇万円が昭和五六年六月期の被告会社の経費である旨の主張を公判外で主張したこともあるごとくである。しかしながら、右の出費全額がそもそも被告会社にとって経費性を有するものといい得るか否かの点をさておいても、関係証拠によると、被告会社と佐藤進との間では、昭和五六年六月期中には西濃地所名義による取引の利益の三割ないし四割を佐藤に支払うという程度の約束がされていたにとどまるうえ、右にいう「利益」の意味内容についても両者間で確たる了解に達していなかったものと認められるのであって、右のような事実関係の下では、昭和五六年六月期末までに被告会社の前記債務が具体的現実的なものとして算定され行使し得る状態になったとまではいえないことは明らかである。それゆえ、被告会社の前記債務は、昭和五六年六月期において、いまだ確定したものとはいえず、また、その支払も現実にされていない以上、結局、その期の損金とはならない。
(法令の適用)
一 罰条
1 被告会社
判示第一の所為につき、昭和五六年法律第五四号による改正前の法人税法一五九条一、二項、一六四条一項、判示第二の所為につき、右改正後の法人税法一五九条一、二項、一六四条一項
2 被告人
判示第一の所為につき、行為時において右改正前の法人税法一五九条一項、裁判時において右改正後の法人税法一五九条一項(刑法六条、一〇条により軽い行為時法の刑による。)、判示第二の所為につき、右改正後の法人税法一五九条一項
二 刑種の選択
被告人につき、いずれも懲役刑を選択
三 併合罪の処理
1 被告会社
刑法四五条前段、四八条二項
2 被告人
刑法四五条前段、四七条本文、一〇条(重い判示第二の罪の刑に加重)
四 刑の執行猶予
被告人につき、刑法二五条一項
(求刑 被告会社罰金一八〇〇万円、被告人懲役一年)
よって、主文のとおり判決する。
出席検察官 上田勇夫
弁護人 西岡文博(主任)・坂本誠一
(裁判官 園部秀穂)
別紙(一) 修正損益計算書
野村信販株式会社
自 昭和54年7月1日
至 昭和55年6月30日
<省略>
<省略>
別紙(二) 修正損益計算書
野村信販株式会社
自 昭和55年7月1日
至 昭和56年6月30日
<省略>
<省略>
別紙(三) 税額計算書
野村信販株式会社
自 昭和54年7月1日
至 昭和55年6月30日
<省略>
自 昭和55年7月1日
至 昭和56年6月30日
<省略>